イギリスのカントリーガーデン

「イギリスのカントリーガーデンには、可愛らしい花が何種類咲いているのだろう」というのは、古い民謡「English Country Garden」に歌われる1フレーズ。イギリス人の庭に対するプライドは世界的にも有名だと思いますが、情熱的で園芸上手なイギリス人たちが手入れしたさまざまな植物をはじめ、ガーデニングの喜びは国中のそこここで見られます。先日、家族を訪ねてイギリスに戻った際、あらためてイングリッシュガーデンの美しさと静謐さを堪能し、旅のハイライトのひとつとなりました。

私は以前から植物やガーデニングが好きで、夏の間はベランダや店の前にハーブなどの植物を鉢植えで置いて育てています。東京の中心部に住んでいると、本当の意味での “ガーデニング “はなかなかできないので残念ですが、それでも私は、古くなった短パンとTシャツを「ガーデニングショーツ&Tシャツ」と名付けて、汚れてもいい庭仕事のときのコスチュームにしています。家の周りの雑草を抜いたり、伸びすぎたジャスミンを剪定したり、ティートゥリーの枝を切り詰めたり…などなど、ときどきやらなければならない、ちょっとした庭仕事用です。そんなわけで先日イギリスへ向かう際にも、このガーデニングコスチュームをワクワクしながらトランクに詰め込みました。イギリスの母の家の庭は広くて手入れが大変なので、滞在中に何か庭仕事ができるだろうと思ったからです。そして、その期待が裏切られることはありませんでした。庭にある2つの大きな花壇の草取りの手間を減らすために、母は花壇の表面を覆って、その上に木くずをかぶせたいと言っていました。バリアを作ることで、雑草の種が発芽・成長できなくなるのです。そこでさっそく私はガーデニング用の短パンを履いて作業に取り掛かりました。まずは古い段ボールを使って最初の層を作ります。Amazonとワインの宅配サービスおかげで、物置に古いダンボールがたくさんありました。段ボールを植物の周り並べたら、手押し車で木くずを運んで、上に敷き詰めていきます。その工程を何度も繰り返します。段ボールを使い切ったところで、今度は一般的な黒い雑草シートを使う方法に切り替えました。暑い日差しのなかでの作業は大変でしたが、やり遂げたときの達成感は格別でした。

Job done, time for a cup of tea

そして身体を動かしたあとは、紅茶を飲みながら庭に座り、鮮やかな環境を味わうひとときを楽しみます。イギリスのカントリーガーデンの夏は、さまざまな色の草花が咲き乱れます。庭園は、私たちにとって心の安穏と静謐をもたらす隠れ家のようなもの。人間の暮らしを豊かにし、彩りを与えてくれるものであることは間違いありません。けれども、もっと重要なのは、庭園と昆虫の関係です。健康な庭には、必ず昆虫たちがいます。低木を飛び回るミツバチや、植木鉢を訪れる色鮮やかな蝶などは、観察対象となって私たちを楽しませてくれますが、その最たる役割は、生物多様性を高めてくれることです。 ハチや蝶などの昆虫は、庭の植物たちの受粉を助け、 また鳥や哺乳類の餌となります。昆虫の存在によって、庭園に自然界の循環が生まれるのです。昆虫の総数は過去20年間で60%も減少したと言われていますが、今こうした昆虫にやさしい庭づくりが、イギリスで注目を集めています。伝統的なイングリッシュガーデンよりも、野生の花を植え、古い丸太や葉、石を積み上げたり、ジャンルにとらわれないさまざまな花を植えたりと、昆虫たちが生きやすい、より自然なスタイルが受け入れらてきています。

昆虫の減少に伴い、鳥たちの命もおびやかされています。鳥たちは、庭師たちの見方でもあります。植物をダメにするアブラムシやコバエ、イモムシなどの害虫を好んで食べてくれるからです。植物と昆虫、そして鳥が豊かな庭は、生物多様性に富んだ空間なんですね。

ではここで、母の家の庭によく来る鳥たちをご紹介しましょう。

母の家に滞在していたとき、母がフラワープレス(押し花キット)を買ってきてくれました。子どもの頃以来です。今イギリスでは、押し花の技術が復活しつつあるとか。押し花は、人類が誕生した頃から行われていたとも言われます。約3000年前のエジプト、トゥテンカムンの母の棺からも、押し花の月桂樹や花輪が見つかっているそうです。けれども正式な押し花は1500年代の日本が発祥。押し花は、花びらや葉などを使って細密なイメージを表現する芸術です。1800年代、日本とヨーロッパの交流により、押し花はヴィクトリア朝のイギリスで人気を博しました。押し花は単に芸術としてだけではなく、記録や保存の手段としても発展していきました。初めて出会った植物を記録として保存し、特別な思い出を残す方法となったのです。

イギリスの夏の庭のサンプルを日本に持ち帰って家族に見せるために、イギリスのAmazonでさっそくフラワープレスを買いました。もちろんフラワープレスがなくても、吸水性のある紙と厚めの本が2冊あれば大丈夫。でも私はこの新しいフラワープレスをとても気に入っています。

最後に、イギリスの古い民謡「English Country Garden」をご紹介。最古のバージョンは1728年にまでさかのぼるそうです。

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